ゲーテの色彩学
- 2012.08.21
- 『美の追究』~審美と噛み合わせのハーモニー~
1991年から4年間に渡り、歯科の専門誌に『美の追究』というタイトルで、当院顧問の稲葉繁が、審美歯科について連載させていただいておりました。
当院の審美歯科治療は、すべて、このコラム『美の追究』を原点としております。
私たちが考える、審美歯科は、歯を白くするだけの技術ではなく、もっと根本的な審美の法則に基づいております。
このブログを読んでいただいている読者の方にお伝えすることが出来ればと思います。
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◆ゲーテの色彩学
ドイツの文豪ゲーテが生物学や色彩学にも優れた業績を挙げていたことは、詩や小説の陰にかくれてあまり知られていません。
ゲーテは色彩学の大家であり、『色彩論』 は彼の全作品中で最も偉大なものであると言われています。
なぜ色彩論を書いたかは、彼自身が色彩論の中の最後の「著書の告白」に述べています。
それによると、その動機は、絵画を勉強したいという欲望があり、1786年から2年間にわたりイタリアに滞在し、本場の絵画に接し、「造形美術に対して生来の資質が乏しいことを知るにおよび、人が美術に関する色彩を幾分なりとも攻略するならば、まず物理的現象としての色彩に迫らなければならない」と考え、色彩の諸現象の研究をすることを決心しました。
その後、ドイツに帰国し、1790年から20年に及ぶ色彩研究が始まったそうです。
その中で生理学色彩論は今でもうけいれられている部分が多く、色彩論の基本となっています。
ゲーテが鍛冶屋で、真っ赤に燃えた火の中に入れた 灼熱の鉄塊を見つめた目で暗い石炭小屋の中を見たとき、ものすごい深紅色の像が浮かびました。
続いて小屋の明るい板壁に目を移したとき、今度は緑色の像が浮かんだといいます。
この現象はフライト・オブ・カラーズのひとつの例であるといってもよいでしょう。
これは、無色の激しく強い光を見つめたとき、いろいろな色が残像になって出たり消えたりする幻惑的現象です。
赤い灼熱の鉄塊の残像は、暗い小屋では明るい残像となって見え、元の色と同じ赤の陽性残像です。
同じ残像でも明るい板壁の上では暗い残像で、この残像は反対色の緑、つまり陰性残像です。
ゲーテの色環は、この時の対立関係を表しています。
色環の中で相対する色は目の中で互いに呼び起こしあうものになります。
黄は菫、橙(だいだい)は青、紅は緑を呼び起こします。
さらにゲーテの観察力は鋭く、白紙上に橙色の紙切れがあっても、それぞれでは回りの白紙が青色になるということはないが、橙色の紙を取り去り、そこに青い仮像が現れると、その瞬間に周囲が橙色になり、ここに対立の法則性があることを直感すると述べ、さらに「目は自己本来の性質にしたがって全体性を求め、色環を完結する。黄に対する菫の中には青と赤がある。青に対する橙の中には赤と黄がある。赤に対する緑の中には黄と青がある、よってここには3つの原色(黄と青と赤)がある」と説明しています。
◆歯科分野での考察
ゲーテのさまざまな色彩学の理論を参考にし、歯科の分野で考察を加えてみると、興味深い事柄がいくつか挙がってきます。
いつも私たちが使っている無影灯は患者様の立場からはあまりよい環境とは言えません。
特に水平診療では、患者様の視野に直接白くて強い光を受けていることになり、目は非常にまぶしいはずです。
そのような環境に長くいると、目の瞳孔は収縮し、明るい環境に慣れてしまっているのは当然です。
そのようなとき、患者様に白い歯の選択をしてもらうのはかなり難しいです。
このような場面では、眼を閉じて、しばらく周囲の明るさに目を順応させた後に色合わせすることをお勧めします。
また、術者側も強い光を直接見ないことが大切ですし、部屋全体の照明にも気を付けていただきたいと思います。
技工の面では
ポーセレンワークの場合にじっと模型を眺め続けることが多いため、残像が起こるのを、常に念頭に置く必要があります。
近頃、石膏の模型材として色とりどりのものが販売されていて、選択の仕方によっては非常に目が疲れやすいものがあるので注意が必要です。
黄色の強いものでは、しばらく作業した後に白いものに目を移すと紫ががって見えることは、すでにご承知の事と思います。
いずれにしても、あまり色の濃いものは注意が必要です。
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