デンタルイリュージョン(その2)

デンタルイリュージョン(その2)

1991年から4年間に渡り、歯科の専門誌に『美の追究』というタイトルで、当院顧問の稲葉繁が、審美歯科について連載させていただいておりました。

当院の審美歯科治療は、すべて、このコラム『美の追究』を原点としております。

私たちが考える、審美歯科は、歯を白くするだけの技術ではなく、もっと根本的な審美の法則に基づいております。

このブログを読んでいただいている読者の方にお伝えすることが出来ればと思います。

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錯視による『情景の想像』

映画の一場面で、恋人同士仲良く話をしているシーンがありますが、カメラが男女の一方をズームアップし、一人の表情を画面一杯にとらえたとき、画面には一人の人物しか映っていなくても、映っている人の目線上にもう一方の人がいるような錯覚に陥り、画面からはずれた人の表情やその時の情景が想像でき、二人が仲良く話している姿が脳裏に浮かんできます。

このように全体のシチュエーションを想像することが可能となり、見えないものが見えてきます。

絵画においても、画家が富士山を描くとき、ほぼ左右対称な輪郭を持つ富士でも中心をずらし、頂上を左右どちらかに寄せて描いている絵がとても多いです。

誰もが富士の形を知っているため絵に描いてない部分の形は予想することができ、何の違和感も起きないし、見えない部分が見えてくるのです。

輪郭をつくる『仮現直線』

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こちらの、カニッツアの図形は、存在しない輪郭がみえてくる図形として有名です。

この図形は均一なメイドの地の上におかれた3つの円の扇形の部分といくつかの線からできています。

全体で見ると、三角形が浮かんできますが、よく見ると、そこには輪郭線の物理的根拠になるものは何もありません。

このような輪郭線の一部だけを見ると、それは消えてしまいますが、図全体を眺めると、輪郭線ははっきり見ることができます。

このように輪郭をつくる線を『仮現直線』 と呼び、互いに等距離にあって、一直線上にない3点をみるとき、視覚系はそれらを1つのワン活計として体制化して見ます。

さらに3点は3本の直線によって結ばれているように見えます。

歯科の分野でもこの現象を応用することができます。

仮現直線の側切歯への応用

口元の中でも前歯は、外観に触れる歯の中心で、正面に位置するため、長さや幅の調整が困難な歯です。

歯科医院を訪れる患者様の中で、しばしば側切歯が内側に入ってしまっている方を見かけます。

このような方への解決策として、見えない線が見えてくる図形の原理を利用することができます。

側切歯が内側に入っている方の多くは、中切歯(真ん中の歯)と犬歯(糸切り歯)の間隔が狭くなっているのが普通です。

この位置に正常な幅の側切歯を入れることは不可能です。隙間の少ないところに小さい歯を入れても、不自然になってしまい美しさに劣るのはもちろんのこと、歯を治す効果が上がりません。

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このような時の解決策としては、もちろん、矯正治療をするのが一番ですが、どうしてもできないような状態にある場合は、正常な歯が中切歯の陰に隠れているように見せることが得策です。

入れ歯にも応用することができます。

正常な大きさの歯が入るスペースがない入れ歯でも、このテクニックを使うことができます。

正常な歯並びの場合、側切歯はわずかに中切歯よりも内側に位置し、大きさも一回り小さいのが普通であり、少ない隙間に歯を入れようとしたとき、どうしても本来の歯の縮小形の小さい歯を作ってしまいがちで、それは結果的にとても不自然になってしまいます。

少ない隙間にふつうの大きさの歯が存在するように見える必要がありますが、このような時にカニッツアの図形を応用することができます。

正常な大きさの歯を選択し、遠心は本来の形をとり、近心は中切歯の遠心に入り込んでいるようにみせればいいのです。

 

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その時、側切歯の近心隅角の一部と近心の歯頸部の間に仮現直線を引き、見えない線を錯視させるようにすると一層効果があります。

残光 

目は、一定の刺激を長期間あるいは強く与えると、ある種のおもしろい現象を表します。

残光という現象がありますが、例えば突然フラッシュを浴びた後にいつまでもいろいろな色彩が現れたり、目の中にフラッシュがちらついたりする現象です。

このとき、目に映る色が実際に見た色と同じ色である場合には陽性残像、見た色と違う色である場合には陰性残像と言いますが、その時の色は補色がみえるはずです。

この錯視残像は、網膜にある種の疲労はそれに関連した過程が生じることによって起こるのはほぼ確実であると言われています。

この現象は歯科の臨床でも遭遇することがあります。

例えば、歯の色を見るとき、赤い口紅を塗った唇に囲まれた歯をじっと眺めていると、本当の色がどれであるか識別できなくなることを私たちは経験します。

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これは陰性残像で見ることになり、歯をじっと見た後に白紙の上に目を移すと、白く蛍光色に輝く唇に囲まれて赤い歯が現れてきます。

このような現象から、セラミック治療などで、歯の色をチェックするときに、対象となる歯を長く見つめることは間違いを生み出しやすいということになります。

このような現象について、ドイツの文豪ゲーテが次のように述べています。

「明るい空を背景に窓の黒い十字の桟をじっと見てから暗い方に目をやると、明るい地の上に黒い十字の桟が浮かんでくる」

「窓の像の印象を灰色の面に移すと、黒い十字の桟は明るく、明るい窓の部分は黒く、明暗が反転する」

いかがでしたでしょうか?

ちょっと難しいお話だったかもしれないですね。

次回はドイツの文豪ゲーテの色彩研究についてお伝えします☆

ゲーテは生物学や色彩学にも優れた業績を挙げていたことは、詩や小説の陰にかくれてあまり知られていませんが、歯科の分野でも大きな影響を与えた方です。

ぜひ楽しみにしていてくださいね。