歯科美学から見るイリュージョニズム

歯科美学から見るイリュージョニズム

1991年から4年間に渡り、歯科の専門誌に『美の追究』というタイトルで、当院顧問の稲葉繁が、審美歯科について連載させていただいておりました。

当院の審美歯科治療は、すべて、このコラム『美の追究』を原点としております。

私たちが考える、審美歯科は、歯を白くするだけの技術ではなく、もっと根本的な審美の法則に基づいております。

このブログを読んでいただいている読者の方にお伝えすることが出来ればと思います。

☆ 彡:・;.*:・。゜゜・:゜*:。゜.*。゜.o。・。゜。o.゜。・*。・゜.。☆彡

稲葉繁の審美修復は『ごまかしのテクニック』 、ほとんどが錯視を応用したものであると言っても間違いないでしょう。

これをデンタルイリュージョンと呼んでいます。

私達が患者様の審美修復をするにあたり、実は、遠近法やだましのテクニックをたくさん応用しています。

今回は、メタモルフォーズで見た歯科治療についてお伝えいたします。

%E3%82%A8%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A3%E3%83%BC.jpg

こちらはだまし絵の天才エッシャーの「昼と夜」

メタモルフォーズといわれる技法で、画面の移行に伴いまったく形の違うものに変身してしまう技法を用いてます。

「昼と夜」は左右の明るさが真ん中で入れ代わり、メタモルフォーズされています。

ちなみに心理学では見えている方を「図」、背景になっているほうを「地」と呼ぶそうです。

ここでは地は徐々に図に代わり、逆に図も同じように地になります。

画面中央部では、図とも地ともなる等価となり、図地の反転が起こり、白い鳥と黒い鳥の飛ぶ姿が交互に現われます。

この反転が不思議な流動感を呼び、あたかも鳥たちは互いに体をすりぬけるように飛んでいるように見えるのですね。

メタモルフォーズで見た、口の中

このエッシャーの『昼と夜』 を歯科的に考察してみると、昼は日光がサンサンと輝き見渡すかぎり遠くまではっきり見えます。

この昼の部分は、顔を前から見た時の前歯の状態として考えられます。

前歯の外観に触れる部分は光を十分に受けるために、隠しようがありません。

前歯から犬歯を通過し、臼歯に行くにつれ、光は減少していき、ついには口の奥、最深部は光が届かないため、闇夜になり、真っ暗で何も見えなくなりますが、唇や頬の隙間からこぼれるわずかな光を受けると、白い歯は反射を起こし輝いて見えます。

光が十分当たるところと、光があたらないところは、犬歯から小臼歯あたりが境界になっています。

そのため、前歯の色や形態は、イリュージョンさせにくい場所、ということがいえます。

歯科を学ぶものは、歯の形態を知ることが基本であり、すべての歯の形態は頭の中に入っています。

そのため、見えない部分も詳細に想像できてしまうのが常ですが、かえってそれが災いしていまうこともあります。

人が相対して顔を見るとき、歯は前歯の全体と犬歯、小臼歯の一部、口を特に大きく開けたり笑った時には、人により大臼歯のごく一部が見えることがあります。

歯は通常唇によって隠れていますが、会話や歌、喜怒哀楽の表情等の人とのコミュニケーションを行うときには、その表情の程度により、口を大きく開いたり、半開きにすることにより外観に現われます。

そのとき、前歯に光が当たりますが、口の奥には光が届きません。

唇や頬が歯を取り囲んでいるので、歯の審美性を判定する際は、正面から観察する必要があります。

患者様自信も鏡を用いて前方から確認していただきますが、その方向もどうにか犬歯の方向ぐらいからです。

したがって、側方から審美の判定を行う事はできないし、行っても無駄であることがあります。

この説明に都合のよいアナモルフォーズを、エアハルト・シェーンが描いています。

%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%EF%BC%91.jpg

シェーンは多くのアナモルフォーズを描いています。

真正面から見ると何を表しているのか全くわかりません。

しかし、これは遠近法を逆用したもので、絵の左の一点から覗くように絵と平行に見ると4人の人物の顔が描かれています。

%E3%82%B7%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%B3%EF%BC%92.jpg

この絵を見る形は、ちょうど歯の模型を見る時と似通っています。

%E5%89%8D%E6%96%B9-001.jpg

歯は真ん中からみるものであり、決して側面から見るものではないことを意味しています。

側面から見た時意味がなくても、真正面から見ると、人が相対した時にお互いに見える歯の審美性と同じことになります。 

%E3%81%9D%E3%81%8F%E3%81%BB%E3%81%86-001.jpg

模型に並んだ人工の歯の審美性を判定 する時に正面から見ることが原則で、側方からの視野はあり得ないことになります。

側方からの形態は、人工の歯の入る隙間により広かったり狭かったりしても、近心半分の形が正常ならば、それは審美性の面からは正常であると見えます。

シェーンの絵を歯科的に見ると、左が前歯で右が臼歯ということになります。

特にテクニシャンは模型上で人工の歯を作る時、唇や頬などは付いていないので、模型以外に何もないと思ってしまいがちです。

特に臼歯を作る場合、側方からだけ見てしまいがちなので、気を付けないといけません。

今回は、ちょっと難しかったでしょうか・・・

次回もデンタルイリュージョンについてお伝えいたします☆